ミツバチの働きと重要性
ミツバチには花粉を運ぶ働きがあり、国連のアヒム・シュタイナー事務局長によれば、世界で食べられている100種類の作物のうち、70以上がミツバチによって受粉されているとのことです。野菜や果物、お茶やコーヒーなど、食料になる植物のほとんどがミツバチの受粉によって支えられているわけです。
ミツバチが花粉を運ぶ理由は、花粉が幼虫の栄養や巣の材料になるからです。また、ミツバチは花の選り好みをしないため、多くの植物の花を訪れていることも理由のひとつです。ミツバチにとって花粉は生きていくために必要なものであり、植物にとってもまたミツバチがいなければ受粉をすることは困難です。ミツバチの花粉媒介が安定することで、植物の生育も安定し農作物の収穫量が上がります。ミツバチの働きは自然界や人間の暮らしを支えるためにも重要であるといえるでしょう。
世界で起きているミツバチの減少
ミツバチは農作物の生育において重要な役割を果たしていることがわかりましたが、そんなミツバチに今、異変が起こっています。1990年代以降、ヨーロッパでミツバチの大量死が見つかり、2010年以降は中国やアメリカ、日本を含む世界各国でミツバチの大量死・大量失踪が報告されています。この現象は蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder: CCD)と呼ばれ、2007年までに北半球の4分の1のミツバチが消失したともいわれています。中でもアメリカでは、2006年からミツバチが一夜にして消失する現象が続いており、米国農務省のデータによれば2006年から2007年、2007年から2008年までの間にミツバチがそれぞれ30%以上減少したと報告されているのです。また、スウェーデンにおいても1970年から2007年にかけて75%の減少が報告されています。
一般的に考えられているミツバチ減少の原因
ミツバチが死んでしまう一番大きな原因は農薬や除草剤に含まれる化学物質です。
ネオニコチノイド系の農薬はミツバチの神経機能に異常をきたし、方向感覚を失わせ帰巣本能を低下させてしまいます。
また、ミツバチは環境の変化に弱い生き物でもあり、気候変動に適応できていないことも理由として挙げられます。
2019年8月23日の米サイエンティフィック・アメリカンの記事
サイエンティフィック・アメリカンは 1845年創刊の科学誌で、アメリカでというより、世界最古の科学メディアです。そこに掲載されていた最近の研究によるミツバチの食料に関する驚愕の事実。
以下、記事の抜粋です。
驚きの発見 : ミツバチが生きるためには肉が必要だった
ミツバチとスズメバチの違いを尋ねると、多くの昆虫学者たちは、「スズメバチは肉食で、ミツバチは草食」と答えるだろう。しかし、新しい研究での発見は、それは真実ではないことを示している。
ミツバチは実は雑食動物であり、肉を食べることがわかったのだ。肉というのは、花の中の微生物のことだ。
現在、世界中でミツバチに関しての大量死やコロニーの崩壊の問題が大きくなっているが、今回の発見は、ミツバチがこのような問題を抱えている理由について新しい洞察を開く可能性がある。
このミツバチがエサとしている微生物の群の状態を混乱させるようなものは、それはミツバチの餓死に結びつく可能性があるということだ。現在のところ、微生物群の状態を混乱させるものとして可能性のあるものとして、 殺菌剤や、高い気温などによる微生物の状態の変化が考えられている。
ミツバチは、その幼虫にとって、花粉の媒介者として最高の存在だ。
花にやって来て、蜜を食べる昆虫や他の生物は多くおり、それらは、花から花に移動する際に花粉も移動させることができる。しかし、ミツバチは、花粉と蜜を故意に一緒に集め、それを巣の幼虫のもとに運ぶのだ。
微生物が花粉に存在すること自体は、何十年もの間、科学者たちに知られていたことだ。
ミツバチが、花粉中のこれらの微生物を摂取する可能性があることは理にはかなっているが、しかし、これまでそれを調べた科学者はいなかった。
今回、 2人の科学者が、ミツバチが雑食であるといえるほどの量の微生物を食べているのかどうかを調査することにした。
米ウィスコンシン大学マディソン校のプラターナ・ダランパル(Prarthana Dharampal)教授と、アメリカ農務省農業研究局(ARS)のショーン・ステファン (Shawn Steffan)博士の 2人は、それに関しての、6つのコロニーの 14種類のミツバチに関して評価をおこなった。
その調査の中で、研究者たちは、ミツバチは肉食であるという評価を与えるのに十分な量の微生物を食べていることを発見したのだ。
微生物を肉と見なすという考えは過激に思えるかもしれないが、過去 4年間、ダランパル氏とステファン氏を含む研究チームは、微生物がミツバチを含む、さまざまな食物網の中の重要な部分であるという証拠を示す一連の論文を発表している。
彼らの発見は、真菌やバクテリア、またはその他の微生物たちが、食物網のどこにでも収まり、捕食者と獲物の関係に新しい洞察を与え、そして「ミツバチは草食」という概念を逆転させた。
ステファン氏と彼の同僚たちはまた、ミツバチの幼虫の成長の状態を調べる中で、微生物の肉は、ミツバチの食事として必要なものであることを示した。
調査では、ミツバチの幼虫に与えるエサの花粉を除菌し、それを少しずつエサに配合した。
その調査の中で、滅菌されているエサ(微生物がいない花粉)の割合が増加するにつれて、ミツバチの幼虫の死亡率が増加していった。また、幼虫の体重も軽くなり、成虫になるのに時間がかかった。このことから、花粉の微生物は、ミツバチの幼虫にとって重要な栄養だと考えられる。
ダランパル氏はこのように言う。
「微生物が、ミツバチにとって非常に重要な栄養源であることがわかったのです。彼らミツバチの食事から、微生物という、この重要な部分が奪われると、彼らはひどく苦しむのです」このミツバチの研究の結果は、特定の微生物がミツバチの食事から消えると、ミツバチは苦しんだり、あるいは飢える可能性があることを示唆している。
現在、世界中で発生しているミツバチの減少について、現在の科学者たちは、生息地の減少や、疾患や病害虫、そして農薬、気候変動などがさまざまに複合的に絡んだことが原因だと考えており、これまでは、このような「ミツバチに直接的に影響を与える原因」から、ミツバチの減少の理由を研究するのが基本的な方法だった。
しかし、今回の研究結果から、このような直接的な要因以外に、「花粉の微生物に与えられている環境ストレス」が要因となっている可能性も考慮するべきことになってきたと考えられる。
つまり、ミツバチそのものがダメージを受けなくとも、花の中の微生物が減少すれば、結果的に、ミツバチは飢えて、あるいは成長することができなくなる。
ステファン氏は次のように言う
「花粉の微生物がいなくなることは、間接的にミツバチを殺すことになっている可能性があるかもしれません」
「 殺菌剤」も、間接的にミツバチを殺しているかもしれないという。これについては、「さらなる研究が必要ですが」と前置きし、ステファン氏は次のように述べた。
「現時点で、 殺菌剤が花粉の微生物群の共生状態を劇的に変化させているという十分な証拠があります。 殺菌剤の農業での利用は、花の中の微生物に対して、大きなストレス要因となっている可能性が非常に高いです。そして、微生物が衰退していくと、それは結局、ミツバチたちの衰退につながります」
新たに判明したミツバチ減少の原因(記事のまとめ)
私たちは「ミツバチは花の蜜を食料として生きている」と認識していますがそれだけではなく、花粉についている微生物をも積極的に食べる雑食性の生き物だったのです。蜜だけでは栄養的に不足していたのです。
自然環境というものには、太古からずっと、常に「カビや雑菌やダニを含む微生物が生息してきた」ものであり、その環境の中でミツバチも生きていたわけですが、その自然の環境から微生物が「排除」されたことによって、ミツバチの食べ物が消えていっている。
ミツバチを死滅させる原因は勿論、殺虫剤などもあるでしょうが、それだけではなかったのです。
現在の農業では作物に対する病気(カビや細菌が原因)を治療する為に殺菌剤をよく使用します。これが世界中のミツバチを殺している原因の一つである可能性が高いといえるのではないでしょうか。
身近にもそうだと思わされる現象があります。
いちご農家さんは現代ではビニールハウスの中でいちごを育てますが、そのビニールハウスの中にミツバチを放し飼いにします。目的は受粉です。ところがシーズンが終わるころになるとミツバチは死ぬのです。「いちごの花の蜜では栄養的に不足なんです。」と、聞いたことがありますが、ハウスの中では病気を防ぐために菌を入れないよう、細心の注意が払われます。要するに花粉は滅菌状態にあるのでしょう。なのでミツバチは餓死してしまうのではないでしょうか。
考え方を見直すべき時
微生物は目に見えにくいですが地球上の至る所に存在しており、全ての生物の生存に大きな貢献をしています。人間もその恩恵を受けている一つです。体からすべての微生物が消えてしまえば到底生きていることは不可能なはずです。
私たちはあまりに〔この世のサイクル〕に無知です。そして傲慢です。
ヒトがこの世を支配しているように考えます。自然の営みを思い通りに変更する事が出来ると錯覚しています。
一部を見て善と悪に二分します。(例えば、善玉菌・悪玉菌と言うように)
ヒトが失ったのは自然への畏敬の念です。ヒトはこの世の営みのほんのわずかしか知り得ていないから、そんな知識だけでこの世を再現する事はできません。
受粉は、世界の農業生産に非常に重要なものです。受粉を媒介するのはミツバチだけではないですが、しかし、ミツバチが世界の食糧生産に重要な受粉の媒介存在であることは確かです。
地球の農作物の約 4分の 3 が生物による受粉に依存していて、世界で 115種類ある主要な食用作物のうち、87種類が受粉動物によって成り立っています。
極端なことをいえば、ミツバチがいなくなれば、世界の半数以上の種類の人間の食糧作物が消えることになります。
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